館長紹介(伊藤義人前館長)

Last updated Oct 18, 2006

名古屋大学の学術情報基盤整備について

名古屋大学附属図書館長
伊藤 義人

図書館長

1.はじめに

平成12年度から6年間附属図書館長を務めましたが,平成18年度から3年間の任期で再任されました1),2)。 この6年間は,国立大学の法人化をはさみ,大学自体が激動の時期でした。 名古屋大学附属図書館だけでなく,全国の大学図書館で,電子ジャーナルなどの学術情報基盤の整備について大きな課題を抱えています。 学術情報基盤整備は,大学の責任であり,その大学経営戦略の中に位置づけられる必要があります3),4),5),6)。 項目ごとに,これまでの6年のまとめと今後の課題および抱負についてまとめてみたいと思います。

2.学術基盤整備の整備

(1)電子ジャーナル

この6年間で,学術情報基盤において最も大事な項目は,電子図書館機能7),8),9)の1つである電子ジャーナルの整備でした。 国立大学図書館協議会(平成16年度から協会)の電子ジャーナルタスクフォース10),11)を,主査として平成12年9月に立ち上げ,全国の国立大学を代表して16社を超える主な外国出版社と直接交渉しました12),13)。 平成17年6月に主査を辞めるときには,12,000誌を超える電子ジャーナルのコンソーシアム契約を実現していました。 現在においても世界に類例のない大規模なものになっています14),15),16)

名古屋大学の電子ジャーナルの購読数は,この成果を利用し,平成17年度では,13,000誌を超えており国内でトップクラスとなっています。 名古屋大学の外国語の冊子体購読雑誌は4,000誌以下ですので,6年前まで毎年,冊子体雑誌の購読中止作業をしていたことを考えると,学術基盤が格段に整備されたと言えます。 コンソーシアム契約では,値上げの上限(キャップ)を定めています。 それでも値上げが無いわけではなく,経費は部局負担及び本部の間接経費でまかなっていますが,大変苦しい状況です17)。 一部の大学では,既に大幅な後退を余儀なくされており,大学の見識が問われています。 学術情報基盤として,電子ジャーナルは中核を形成しており,その経費は少なくとも電気代より大事で,これを維持することは,大学の見識と言われています。 次世代の研究者を育てるためにも,この種の学術基盤の整備が重要と思います。

大手出版の学術雑誌の遡及入力が進み,創刊号からバックファイルとして提供されるようになり,平成16年度以降は,その導入整備を進めてきました。 最新刊の電子ジャーナルと違って,バックファイルは買い取りが普通であり,かなり高額ではありましたが,大学本部の理解を得て間接経費などで整備してきています。 エルゼビアサイエンス社のScienceDirectのバックファイル約2,100誌(内約270誌はバックファイルのみの収録誌)が,古いものは19世紀始めの創刊号から利用できるようになりました。 Springer社(812誌),Wiley社(172誌),American Physical Society (12誌),American Chemical Society(30誌)も整備できました。 これに,JSTORの収録誌約780誌を加えると,創刊号から利用できる電子ジャーナルは約3,900誌になります。 各研究室に居て,創刊号からの論文をダウンロードでき,かつ,Web of Scienceなどの2次データベースなどから,フルテキストの論文に直接アクセスできることによって,格段に教育研究手法は高度化しています。


(2)電子ブックと学習用図書の見直し

試行的に,平成15年度と16年度に,合計569冊の有料電子ブックを総長裁量経費で導入し,無料の3,400冊の電子ブックと一緒に運用しています。 しかし,次のような課題があります。

  1. 限られた費用しかないので選書が難しい(約6万点の中から選ぶ)。
  2. 購入点数が少なく利用がそれ程伸びない。
  3. 電子ブックの有用さを利用するビジネスモデルがない。すなわち,本のようにアクセスが1人に限られるなど,電子ブック本来の特性を活かしていない。

これは,初期の電子ジャーナルが抱えていた問題と似たような状況です。 電子ジャーナルと同じようなサイトライセンスで,アクセス制限なしのモデルも最近提案され始めていますが,経費のことを考えるとその整備は容易ではありません。 電子ジャーナル以上に図書館を大きく変える可能性がある電子ブックですが,今後,注意深く見守る必要があります。

従って,当分の間,本自体はまだ紙媒体が主流です。毎年,新刊書を先生方や学生の希望も聞きながら整備しています。 また,中央図書館の20万冊の学習用図書を見直すために,各部局の先生方に蔵書整備アドバイザーを委嘱して,ここ数年でほぼ全分野の点検が終わりつつあります。 改訂版への買い換え,廃棄,研究用書棚への変更などを行っています。 実際の利用実績では,新版への更新や補完整備した学習用図書は,他のものに比べ数倍利用されるようになっています。

(3)大型資料

文部科学省の大型コレクションの制度は,平成13年度に廃止になりました。 法人化後は,特に,この種の資料の整備は各大学に任されたことになっています。 名古屋大学では,間接経費の使途に,当初から大型資料収集への支出を想定していましたが,平成17年度に初めて認められました。 文系の複数の部局の要求資料が整備されました。 今後も継続して,大型資料の整備が必要ですが,大学の財政状況が効率化係数などにより悪化して,非常に困難な状況であり,名古屋大学に必須の資料を絞り込むと同時に,学内理解をさらに得る必要があります。

(4)中央図書館の快適空間の確保

図書館においては,安全で快適な空間の提供が重要な役割です。 図書館は学習環境として,学内で,学部生,大学院生に広く開放されている貴重な空間であり,学習および研究に不可欠です。 その空間が,学内でもっとも安全で快適でなければいけないのは当然です。

中央図書館の照明は,かなり光量不足でしたが,平成16年末に,大半の照明器具を更新し,十分な光量を確保しました。 同時に,2階カウンター付近や階段,トイレなどの改装(洗浄便器の設置)を行いました。

今後は,単なる個人の静謐空間の提供だけでなく,デジタル情報と紙などのアナログ情報をシームレスに有効に利用でき,かつ,グループで使えるLearning Commonsの整備を行って行きたいと思っています。 いわゆる新しい学習空間の創設の試みです。

毎年,学生と直接話す機会を「館長と話そう!200X」として行っています。 利用時間延長や複写機の増設など要望があったものについては,すぐに実施しているものもあります。 今後とも,このような機会を設けて,利用者の要望にそった快適な学習空間を作りたいと思っています。

3.最近の諸課題

(1) 学術機関リポジトリ

図書館の機能として,情報発信は重要な機能の1つとして認識されていましたが,その実現は難しかったのが現実でした18),19)。 喫緊の課題として学術機関リボジトリが,世界的に注目されており,名古屋大学においても,附属図書館が中心となって事業を進めています。学術機関リポジトリとは,大学の知名度の向上,あるいは社会に対する説明責任の履行,また大学の研究成果の広範な流通のため,研究者の研究成果や教材など大学として蓄積・保存し,社会にむけて情報発信するものです。 平成14年度から勉強会に参加し,平成16年度から,情報学研究所のCSI(Cyber Science Infrastructure)事業に参画し,名古屋大学リポジトリの構築を開始し,日本で7番目に登録を行い,名古屋大学の知的生産物を世界へ向けて情報発信をしています。 学術情報流通の一部を研究者や大学に取り戻して,商業出版の寡占を抑制するためにも重要な事業と考えています。

各先生方からの知的生産物を寄贈していただく必要があるため,部局の教授会に直接私も説明に行っています。 ここ数年で実質的な立ち上げを完了する必要があります。

(2)パスファインダー

パスファインダーとは,学生の情報探索のために,各テーマに関係する情報を調べたい時や,レポート・論文を書くために必要な情報収集の役にたつ「道しるべ」です。 A4サイズ2枚で,テーマ別にデジタル情報と紙情報の資料収集の方法を手順を踏んで記述したもので,電子媒体のものを使えば,リンクをたどって直接原情報にアクセスできます。 デジタル情報と紙情報をシームレスに使えるように工夫されています。

米国式の対面サービスなどは,日本において人員などの制約で難しく,それを補う方策として,図書職員の技能を情報技術を使って埋め込み利用するのがこのパスファンダーです。 学生の論文やレポート作成能力の向上に少しでも役に立てばと思います。

(3)自己評価,外部評価の実施

平成12年度に自己評価を実施し,その評価書を基に平成13年度に外部評価を実施しました20)。 その後の法人化をはさみ,平成17年度にも自己評価と外部評価を行いました。 平成17年度の外部評価では,図書館関係者だけでなく,2人の一般市民の方々にも参画していただき貴重な意見をいただきました。 法人化後は,附属図書館も,ミッションとビジョンを制定し,83項目に亘る中期計画と中期目標を策定し,それに従って年度計画を作り,年度計画を実施後,項目別に自己評価しています。

(4)法人化後の図書館経営

法人化後は,大学をどのように経営するかが問題になっていますが,附属図書館においても環境の変化にどのように対処して経営するかが重要な課題となっています21)。 東海地区の館長懇談会は,ここ6年ずっと行っていますが,平成18年1月に,全国の国立大学図書館の約半数の館長が名古屋大学に集まって,1泊2日の館長懇談会を行いました。 電子ジャーナル問題や財務・人事などの経営問題について,厳しい議論を行いました。

この館長懇談会は,あくまでも情報共有と意見交換を目的とするもので,結論を得たり何かを決定するものではありません。 また,国立大学は国立大学法人として独立した存在であり,個性ある大学を支えるために,大学図書館も「競争と連携」22),23)をする必要があります。 そのため,この懇談会は護送船団方式や他の大学図書館に依存するスタンスではなく,独自の図書館運営(経営)を考える場を,自ら自主的に作るというものでした。 ただし,図書館は「No library is island (D.アーカート)」と言われるように,連携やネットワークも重要であるという認識は共有しました。 大学図書館の経営者としての自覚と見識と経営能力を高める場になったと思います。

(5) 附属図書館研究開発室

附属図書館研究開発室は,平成12年に評議会で認められ,流用ポストとして専任助教授と専任助手が手当されました24)。 平成15年度からは,兼任室員として,8名の先生方(情報連携基盤センター:4名,文学研究科:1名,医学系研究科:1名,環境学研究科:1名,経済学研究科:1名)にも,それぞれ異なる研究開発目的を持っていただいて参加していただいています。 室長である私が,月に1度,ファカルティ・ミーティング(FM)を主催しています。 研究開発室主催の講演会や展示会も実施しており,日本の国立大学の中で,非常に注目されています。 平成17年度には,名古屋大学電子図書館国際会議を開催しましたが,研究開発室を持っていることが,大きな支えとなりました。 大学図書館の高度化のためには,研究開発機能は必須であり,現在,5年間で5%の総人件費の削減で,全学流用の見直しが行われていますが,研究開発室を是非とも継続する必要があると考えています。

(6)開館時間の延長等のサービス向上

図書館は,研究と教育を支援するだけでなく,快適な学習空間を提供するのも大きな役割です。 そのためには,図書館が出来るだけ多く開館し,学生の在学時間を長くする必要があります。 この6年間に,図書職員の協力と大学本部の支援によって,名古屋大学は,全国の大学の中でも最も開館日数・時間が多い大学の1つになっています。 平日は夜10時まで開館しており,最近は,土・日曜日でも,試験関連期間には,同じく夜10時まで開館するようにしています。 授業の無いときにも図書館が開いていて,自主的な学習が快適に行えるようにすることが,学生を大事にするという法人化後の目標を実現するために必要と思っています。


(7)常設展示室の設置,記念シンポジウム・講演会の実施および友の会の創設

大学の顔の役割を附属図書館は,社会に対して果たすべきと言われています。 平成12年に中央図書館4階に展示室を整備して,常設展示を行うとともに,年2回の特別展と,関連した講演会を継続して実施しています。 他部局とも協力して,市民や学内構成員に貴重な附属図書館資料などに触れる機会を設けています。

(8)外部資金

エココレクションデータベース作成のための科学研究費や学術機関リポジトリ構築のためのCSI(Cyber Science Infrastructure)事業(情報学研究所)への参画,栄ライオンズクラブ等の寄付など,最近は年間数千万円の外部資金を継続して獲得しています。 大学図書館は,大学がきちんと整備すべきものですが,新しい競争的な事業を行うためには,附属図書館も外部資金を獲得することが強く求められています。

4.学外との連携協力

(1)東海地区図書館協議会

国公私立大学の図書館が集まった東海地区大学図書館協議会25)は,昭和25年に設立され,名古屋大学附属図書館が会長館として活動してきました。 しかし,大学構成員のニーズは多様化しており,市民への大学図書館のさらなる開放も要請されており,館種を超えた図書館協力の必要性が増しています26)。 そこで,平成16年秋に,大学図書館と公共図書館との連携をはかるため東海地区図書館協議会を設立しました。 平成17年7月からは,相互貸借や複写サービスを開始しています。 今後は,図書職員の研修やデジタルレファレンスなどの事業の可能性を検討したいと思っています。

(2)国立大学図書館協会

電子ジャーナルについては,電子ジャーナルタスクフォースを作り,強力な交渉を行い,成果をあげました。 しかし,法人化後は,各大学の状況が大きく変わり,各大学の戦略に従って附属図書館も動き,通常の連携はやりにくくなっていると言われています。 すなわち,大きな大学の成功体験は,中小規模の大学には役にたたないというようなことです。 また,従来リーダーシップをとっていた大学が,日本全体の学術の発展ではなく,自大学の事のみを考えるようになったと言う人もいます。 競争は,もちろん必要でしょうが,図書館は連携なくしては成り立たない機能も沢山あり,今後ともさらに連携を進める必要があると思います。 一部の大学図書館が機能不全をおこし,10年後には,現在の状況を批判される可能性があると思っています。

(3)地域に根ざした図書館

名古屋大学は,基幹総合大学ですが,地域に根ざした大学でもある必要があります。 附属図書館では,地域貢献特別経費や科学研究費によって地域の資料を収集整理し,公開することなどによって,社会貢献をしています。 高木家文書と伊藤圭介文庫27)が中心ですが,尾張地域は,近世文書の宝庫であり,今後もこの活動が重要と思います。

中央図書館の市民への開放は,図書の貸し出しも含めて行っており,年間35,000人を超える人が来館しています。 市民との直接の交流のため,「図書館友の会」も設立し,現在は会員が200名を超えて,平成17年度からは独自の「ふみよむゆふべ」という会を,年に数回実施できるようになっています。

今後,さらにこれらを発展させ,附属図書館が地域に根ざした大学の顔になるように努力したいと思っています。

5.おわりに

これまでの6年間に,商議員や図書職員の協力を得て実現できたことも多いですが,出来なかったことも多くあります。 また,新たな課題が毎年発生しています。 規模の大小を問わず大学図書館の悩みは深いものがあります。 附属図書館,ひいては名古屋大学の将来を思うと暗澹たる思いにかられることもあります。 図書館自体は,常に変化していくものであり,たゆまない改革が必要と考えています28)

できればこの4月からは,教授職に専念して,定年までの10年間で教育研究においてもう1つのピークを作りたいと思っていました。 しかし,館長選挙によってこの願いはかないませんでした。 任期中は,全力で附属図書館や大学がよくなる方向に努力したいと思っています。

なお,この紙面は限られていますので,十分に説明できなかった項目や記述できなかった項目が多いので,これまで広報などのため,図書館に関して書いた著書や報告を,多少冗長ですが参考文献に示します。

参考文献

  1. 伊藤義人.附属図書館長に就任して.館燈:名古屋大学附属図書館報. No.135, 2000, p.1-5.
  2. 伊藤義人.附属図書館長に再任されて. 館燈 : 名古屋大学附属図書館報. No.147, 2003,p.1-6.
  3. 伊藤義人.附属図書館と情報連携基盤センターの連携協力について. 館燈 : 名古屋大学附属図書館報. No.144, 2002, p.1-3.
  4. 伊藤義人.大学における図書館の位置づけ. 金沢大学附属図書館報「こまち」,No.148,2003.2,p.4-6
  5. 伊藤義人.名古屋大学の情報戦略について. 名古屋大学情報連携基盤センターニュース. No.10, 2004,p.1-2.
  6. 伊藤義人.平野眞一総長に聞く : 図書館は知の宝庫,学術の基盤. 館燈 : 名古屋大学附属図書館報. No.154, 2004,p.1-4.
  7. 伊藤義人.大学図書館経営における電子図書館機能の基盤整備について. 国立国会図書館月報,No.504,2003.3,p.3.
  8. 伊藤義人.名古屋大学電子図書館構想について. 館燈 : 名古屋大学附属図書館報. No.128, 1998, p.8-11.
  9. 伊藤義人.電子図書館と電子ジャーナル : 学術コミュニケーションはどう変わるか. 丸善,2004,p.51-78, (情報学シリーズ, 8).(ISBN 4-6210-7432-6)
  10. 伊藤義人.国立大学図書館協議会のコンソーシアム構想について. 情報の科学と技術. Vol.52, No.5, 2002.5, p.262-265.
  11. 伊藤義人.電子ジャーナルへの対応. 大学図書館協力ニュース. Vol.22, No.6, 2002.3, p.9-11.
  12. 伊藤義人.アジア諸国における情報サービスの利用 : 第4回.日本 電子ジャーナルコンソーシアム形成と今後の問題点について 「国立大学図書館協会電子ジャーナルタスクフォースの活動」,情報管理. Vol.4, No.12, 2004,p.786-795.
  13. 伊藤義人.電子図書館と電子ジャーナル : 学術コミュニケーションはどう変わるか. 丸善,2004,p.51-78, (情報学シリーズ, 8).(ISBN 4-6210-7432-6)
  14. 伊藤義人.IFLA Preconference 2003に参加して. 館燈 : 名古屋大学附属図書館報.  No.149,2003,p.1-3.
  15. Itoh, Y.Establishment of the Consortia of Electronic Journals in Japan, IFLA Preconference 2003, Munich, German, 2003, 12pages.
  16. Itoh, Y.Present Situation and Issues of the Consortia of Electro Journal in Japan. IADLC 2005 : proceedings of the International Advanced Digital Library Conference in Nagoya August 25-26, 2005 Nagoya, Japan. [Handa] , Ichiryusha, c2005, p.97-108.
  17. 伊藤義人.基調報告(1)電子ジャーナルの円滑な導入と安定的な運営の実現に向けての取り組み : 国立大学図書館協会電子ジャーナル・タスクフォースの活動. 静脩 : 京都大学附属図書館報. Vol.41, No.2/3,2004. p.2-8.
  18. 伊藤義人.学術情報の収集・発信の企画と運用. 平成16年度大学図書館職員長期研修講義要綱. 文部科学省・筑波大学, 2004,p.66-71.
  19. 伊藤義人.学術情報の収集・発信の企画と運用. 第17年度大学図書館職員長期研修講義要綱,筑波大学・文部科学省. 2005,p.69-75.
  20. 附属図書館外部評価への対応の現状.館燈.名古屋大学附属図書館報. No.146, 2003, p.1-8.
  21. 伊藤義人.大学改革と大学図書館. 平成14年度大学図書館職員講習会テキスト. 文部科学省,2002.11,p.16-17.
  22. 伊藤義人.法人化後の附属図書館経営について「競争と連携」. 館燈 : 名古屋大学附属図書館報. No.151, 2004,p.1-3.
  23. 伊藤義人.法人化を見据えた図書館経営について. 大学図書館研究. No.70別冊, 2004,p.13-17.
  24. 松尾稔.附属図書館研究開発室の発足にあたって. 名古屋大学附属図書館研究開発室LIBST Newsletter. No.1,2002,p.1-2.
  25. 伊藤義人.協議会誌第50号記念号発刊に寄せて(巻頭言). 東海地区大学図書館協議会誌. 50号記念号,2005, p.1.
  26. 伊藤義人. 館種を超えた図書館の連携と経営(巻頭言). 中部図書館学会誌. No.47, 2005, [頁付なし].
  27. たとえば,伊藤義人.伊藤圭介文庫. 学士会会報. 2002-IV, No.837,2002, p.235-239.
  28. 伊藤義人. 第3章 大学図書館組織論. 変わりゆく大学図書館. 勁草書房,2005,p.29-39.(ISBN 4-3260-0029-5)

Last updated Dec 9, 2004

法人化後の附属図書館経営について−競争と連携−

名古屋大学附属図書館長
伊藤義人

図書館長

 国立大学の法人化に際しての附属図書館のあり方についての考えをまとめたものです.附属図書館長として5年目を,このような激動期に迎え,今後,名古屋大学附属図書館の経営および各種機関との連携に努力したいと思っております.

1.法人化後の大学図書館

大学の役割が,教育,研究,社会貢献であるということは,法人化後も変化はありません.名古屋大学附属図書館も,この役割の名古屋大学を支える大学図書館を目指すことは言うまでもありません.自主性を持った個性ある大学として,「新しい教育研究領域,新しい教育研究手法の確立」などを支える図書館を目指すことになります.法人化後は,大学は,従来の部局単位ではなく今後は大学全体として,説明責任を社会に示す必要があり,大学図書館は「大学の顔」という本来の役割を果たすことが求められています.

大学改革の大きな目標の1つは,学生を中心に据えるということです.法人化後の大学図書館の方向性は,当然,大学改革の方向と一致している必要があります.そのため,まず大学図書館は,快適な学習空間,学習基盤をさらに整備して,学生の学内滞在時間の長期化を図る必要があります.このための資源確保は,大学が責任を持って行う必要があります.

社会への説明責任としての情報発信について,大学は従来,学部,研究科,センター,研究所等がバラバラに情報を外に発信していましたが,これでは大学が持つ情報が外部から非常に分かりにくいです.そこで,図書館が「大学の情報発信の中心となる」ことも必要でしょう.文部科学省のデジタル研究情報基盤ワーキング・グループが平成14年3月に出した報告書1)では,各大学が機関共同サーバーを作り,国立情報学研究所と連携して,種々のコラボレーション環境を提供するという構想で図書館機能の強化を既に打ち出しています.名古屋大学附属図書館では,情報連携基盤センターとも連携して,学術コラボレーションシステムやその発展型である学術ナレッジファクトリー構想を立ち上げ,一部試行を開始しています.今後,この構想を一層進める必要があります.

大学図書館も,大学の役割と同じく教育と研究だけでなく社会貢献を目指す必要があります.大学構成員のためだけの図書館ではなく,市民などの学外者にもオープンにすることが求められています.名古屋大学の中央図書館は,早くから休日開館を実施しており,本の貸し出しを含む市民への図書館開放も既に行っていますが,今後は,さらに大学図書館資料を必要とする学外者へのサービスの提供が求められます.また,来館を待ってサービスを行うだけの姿勢ではなく,積極的に図書館を高度利用できるような工夫も必要です.貴重な図書館資料を積極的に開示する展示会や講演会の重要性もますます必要と思います.

大学図書館も"経営する"つまり,業務の改革や責任体制の明確化を行う必要があります.これは,単に独自の収入源を求めるというようなものだけではなく,もっと根本的な改革を求められています.大学自体,IT武装化を進める必要があり,図書館は大学の情報戦略の中心にあるべきだろうと思います.

今後,大学図書館は競争と連携をすることになります.連携は,大学の学術基盤整備と情報発信の核となるという点に関して,これまで以上に行い,競争は,個性ある大学を支える図書館を設計することによって行うことになります.大学図書館は,両方の視点でその存置理由を常に問われます.時代に合致した自律的なたゆまぬ変革を行い,外部評価を受けて説明責任を果たさなければなりません.

2.競争と連携による図書館経営

競争というと,すぐにゼロサムの奪い合いというようなイメージを受けますが,ここでいう競争は,そのようなものを意味しません.質の向上を目指すことを意味します.先進的な試みを自己責任で行い,大学の新しい教育研究分野・教育研究手法や社会貢献を支援するという意味です.護送船団方式で,合意を取って,一斉に同じ事をするということの対極に位置する考え方です.

法人化に対応するためには,これまで以上に連携が必要であり,特に地域連携と国際連携が重要になると思います.

図書館の連携については,古くから認識されています.しかし,現状では,設置形態が類似の館間での連携は多少ありますが,設置形態の異なる館間では,ほとんどありません.もはや財政的にとても1館ではやっていけません.例えば,一般書を収集している公共図書館と教育研究書を収集している大学図書館の連携は,補完できる関係にありますが,これまで,多くの国立大学は積極的ではありませんでした.「インターネット」や「デジタル化」という道具が整備されつつあり,また「社会の要請」という風も吹いていますので,設置形態を越えた実質的な連携をする状況がやってきたと言えます.

その連携活動を始める例として「デジタル・レファレンス」が挙げられるのではないかと思います.先行事例の「デジタル・レファレンス」として,米国のQuestionPoint2)があります.これは,OCLCやLCなど100以上の図書館による共同プロジェクトで,信頼性,持続性ある共同レファレンス・サービスを提供しようとするものです.インターネット上のQuestionPoint によって,24時間いつでもプロのレファレンス・ライブラリアンがサービスを提供するというVirtual Reference Serviceです.

公共図書館との連携と棲み分けも必要となります.大学図書館と公共図書館は,互いの代わりはできませんが,市民や大学構成員のニーズが非常に多様化しているので,双方が協力しないと生涯教育やNPO支援等に対応できません.また,公共図書館を含む地域連携に関しては,地域の中核拠点として大学図書館はあるべきでしょう.大学図書館だけの連携組織だけでなく,実際の共同事業を行える館種を越えた連携組織が必要でしょう.

地域の連携を進めるために,大学図書館と公共図書館の連携の枠組みとして,「東海地区図書館協議会」の設立を目指して,既に名古屋大学附属図書館のリーダーシップにより話し合いが進んでおり,今年中には新しい連携の枠組みができるものと思います.

3.法人後のハイブリッド図書館整備

名古屋大学附属図書館は,従来型図書館機能と電子図書館機能を有機的に融合したハイブリッド図書館を目指しています.法人化後,各国立大学職員は,法人のために働く必要があり,他の国立大学法人のためには,何もできず連携ができないと考えている人もいるようです.少なくとも,法人に害を与えるような連携はできませんが,電子図書館機能の整備のための連携の代表である電子ジャーナルコンソーシアム3)〜6)などは,当然,国立大学法人の利益にかないますので,これまで以上の利益が得られるような活動を行っていく必要があります.

電子図書館機能整備の問題点は大きく分けて1)著作権問題,2)費用,3)新しい資質を持った人材の育成,の3点ですが,いずれも単独で解決できるものではありません.

電子ジャーナルは導入に膨大な費用を要しますのでコンソーシアムが必要です.電子ジャーナルの欠点であるアーカイブスについても,日本では国立情報学研究所が既にアーカイブスのサーバーを立ち上げましたが,今後も強化する必要があります.市民が大学に来て利用する場合(Walk-in User)も,電子ジャーナルは原則利用可能としていますので,社会貢献の道具にもなります.名古屋大学の中央図書館では,学外の来館者に対する電子ジャーナルの印刷サービスを,この4月から開始しています.

私立大学でも,電子ジャーナルのコンソーシアムが立ち上がる予定です.また,国公私立大学図書館協力委員会で図2のようなJCOLCを作りました.現在はまだ単なる情報の共有ですが,少しずつ公私立大学にもコンソーシアムを広げようと努力されると思います.

電子ブック(e-Book,Online Book)については,世界で10億ドル市場になるとも言われています.それに対して日本は相当遅れをとっています.今後,この電子ブックに関しては大学図書館が役割を果たせるのではないかと考えています.例えば,教科書であれば,著者,利用者,サービスする図書館,いずれも学内にあります.また,同じ冊子版は大学出版会から出版すれば,費用の問題はないだろうと思います.さらに,WebCTなどのe-Learningツールにも対応できるようにすると良いと思います.外国では既にe-Learningで電子化された講議を無料で公開している大学もあります.

名古屋大学附属図書館研究開発室は,情報連携基盤センターとも連携しながら,電子ブックの普及と高度利用について検討を行っています.

法人化に関連して,図書館及び職員に求められるものは,情報技術を活用した学内,地域,全国,国際的連携です.それから,文化情報資源の維持発展を忘れてはなりません.情報技術を活用した新しい知恵も必要です.研究開発機能,企画・立案,経営力といった,新しい資質が求められています.

4.おわりに

これまで,名古屋大学附属図書館は,法人化後を見据えた準備を,種々してきましたが,この4月に法人化が実施されて,いよいよその成果が試されることになります.法人化を成功に導くためには,経営や運営に責任をもつ役員会などの執行部の的確な判断と見通しとともに,職員の創意工夫と協力がうまく融合することが必要です.その意味では,法人化は,大学構成員の個々人が自主性と意欲を持って活動することが求められています.

図書館学で有名なS.R.ランガナタン「図書館学の五原則」に「図書館は成長する有機体である」がありますが,今こそこれを名古屋大学で実践して,歴史的転換点とパラダイム転換を乗り越えていかなくてはなりません.大学や図書館の置かれている危機的状況は変革のチャンスでもあり,図書館の自己改革と再設計を行うため,図書館の迅速な意思決定システムを創り,地域および全国レベルで大学図書館が連携協力することによって,大学図書館がその本来の役割を果たせるように,図書館職員一同努力していくつもりです.

参考文献

注:この原稿は,文献7)で書いた内容を含んでいます.詳しくは文献7)を参照してください.

Last updated Apr 30, 2003

附属図書館長に再任されて

名古屋大学附属図書館長
伊藤義人

1.はじめに

平成12年度から3年間附属図書館長を務めましたが,平成15年度から3年間の予定で再任されましたので,項目別にこれまでの3年間のまとめと今後の課題および抱負についてまとめてみたいと思います.

この3年間,毎年4月には,附属図書館商議員会と職員懇談会において,その年の附属図書館の懸案事項1)を提示して,その年の課題と展望についてまとめていました.附属図書館をとりまく厳しい環境の中で,基本的には出来ることは何でもやるというスタンスで取り組みました.かなり実現できたものもありますが,今後の課題として残ったものも多いです.

2.学内における図書館の基盤整備と利用者サービスの向上

1)情報連携基盤センターの創設協力と連携

平成10年から,基盤センター構想には大型計算機センター,情報メディア教育センターと一緒になって附属図書館も深く関わっていました.情報連携基盤センターが文部科学省に認められて,平成13年4月に実現しました2).情報メディア教育センターの扱いなどで学内および文部科学省との厳しいやりとりもありましたが,何とか法人化の前に実現できました.私は,電子図書館推進委員会委員長のときから,概算要求書原案作成に関わっていましたので,この実現は大変感慨深いものがあります.戒能前館長,山本情報メディア教育センター長,阿草情報連携基盤センター長らのご努力のたまものであり,名古屋大学の複数の部局が連携できたよい例を作ったと思います.

附属図書館も1掛(掛長を含む2名)を情報連携基盤センターに出しました.4部門で構成される研究部の中には,電子図書館機能を研究開発する「学術情報開発研究部門」が作られ,この部門の教授,助教授,助手の3教員は,創設委員会で後述する附属図書館研究開発室への兼任が認められました.既に,この部門と附属図書館研究開発室は密接な関係を築き,今後の名古屋大学の電子図書館機能の高度化に重要な役割を果たし始めています.今後は,日本全体の大学図書館機能の研究開発をリードするとともに,国際的な連携も視野に入れる必要があります.

2) 附属図書館研究開発室

附属図書館研究開発室は,平成12年に評議会で認められ,流用ポストとして専任助教授と専任助手が手当されました3).新しい図書館学の専門家である逸村先生と高木家文書を中心とした古典籍の専門家である秋山先生に就任していただきました.平成14年度からは,兼任室員として,8名の先生方(情報連携基盤センター:4名,文学研究科:1名,医学系研究科:1名,環境学研究科:1名,経済学研究科:1名)に,それぞれ異なる研究開発目的を持っていただいて参加していただいています.室長である私が,1ヶ月に1度,教官会を主催しています.既に,研究開発室のNewsletterなどで,お知らせしていますが,研究開発室主催の講演会や展示会も実施しており,日本の国立大学の中で,非常に注目されています.名古屋大学の研究開発室をまねて,このような研究開発室を附属図書館に作ろうとしている大学もあるようです.図書館の高度化のためには,研究開発機能は必須であり,今後,研究開発室の活動をさらに活発化したいと思っています.

なお,平成15年度からは,図書館職員の研修にこれまでもご支援いただいていた文学研究科の塩村先生にも室員として入っていただき,12名体制で活動しています.

3)開館時間の延長等のサービス向上

図書館は,研究と教育を支援するだけでなく,快適な学習空間を提供するのも大きな役割です.そのためには,長く図書館が開館している必要があります.欧米の大学図書館を見ればよくわかります.

全学の学年暦が統一され,授業が8:45から始まるのに,中央図書館は9:00から開館をしていました.そのため,平成12年から8:45開館を実現しました.開館準備にかなり時間がかかるのですが,図書職員の協力で何とか自助努力で実現しました.

その後,夜は8時で閉館していましたが,松尾総長などのご理解により,平成13年9月から夜10時まで開館できるようになりました.名古屋大学は,全国に先駆けて土日曜日や祝日開館をしていましたが,8月の土日曜日は閉館していました.夏休み期間こそ,留学生などに必要ということで,これも平成14年度から,土日曜日も開館するようにしました.

さらに,休館日の減少に努め,平成14年度からは,1ヶ月に1度の書架整理休館,年末年始と年度末の長期書架整理休館程度となり,開館日数,時間とも全国有数の大学となりました.

また,サービス向上のために土日曜日にも本の貸し出しを平成14年度から開始しました.国際化対応のため,多国籍語(英語,ハングル,中国語)の利用案内や中央図書館内の英語表示の強化なども行いました.また,留学生ガイダンスなども積極的に行うようにしました.

今後とも,安全で快適な空間を提供できるように,セキュリティー対策や,国際化対応を含むさらなる利用者サービスの向上に努めるつもりです.

4)建物要求概算要求

附属図書館は,平成10年度(第1次),11年度(第2次)の商議員会で一元化・集中化の将来構想を承認しています.そのために,東館と西館の増設を構想しましたが,まだ,実現には至っていません.図書館システム検討委員会を中心に,平成14年度概算で東館構想(6,000m2)と西館構想(5,000m2)をまとめていただきました.今は,これらをより早く実現するために,情報関連の他部局とのコンプレックス(複合建物)として要求する案を模索しています.法人化後は,建物をPFIで建設する必要がある可能性もあり,今後,さらに検討が必要です.

現在,古川総合資料館(旧古川図書館)内の一部を,保存図書室機能として中央図書館だけでなく各部局図書室も使っています.今後の蔵書の増加を考えると,保存図書館機能は是非必要であり,また,博物館が自前の建物を持ったときには,将来的には古川総合資料館を図書館に戻し,社会に開かれた特色ある図書館とする構想もあります.

5)常設展示室の設置,記念シンポジウム・講演会の実施

中央図書館4階にファカルティーラウンジとしておかれていた部屋が,ほとんど利用されないままであったものを,総長裁量経費をいただいて,平成12年度に展示室として開設しました.開設にあたって,高木家文書に関する記念シンポジウム・講演会を実施しましたが,大変盛況で評判のよいものでした.この部屋は,通常は常設展示室として使い,春季と秋季に,特別展示を定期的に行うようになりました.

大学の顔の役割を附属図書館は,社会に対して果たすべきと言われていますが,この展示室は,その意味で良い時期に開設されたと思います.今後,他部局とも協力して,学内構成員に貴重な附属図書館資料に触れる機会を設け,さらには社会貢献のため,市民に開かれた展示会・講演会をできるだけ多く実施したいと思っています.

平成13年に,名古屋市博物館と共催で,伊藤圭介没後100年記念シンポジウムを実施しましたが,その続きとして平成15年秋季には伊藤圭介生誕200年記念シンポジウム・展示会を実施します.

6)情報公開・共有

厳しい環境の図書館経営のためには,職員や商議員との情報共有および外部への情報公開を通じて,附属図書館の基盤整備とサービスの向上に努める必要があります.そこで,平成12年度からは,商議員会とその下での委員会や,中央図書館内の業務会議などの議事録を公開するようにしました.部局の図書系職員にも,情報が流れるようにし,HPを使って,館長だよりや各種情報も流すようにしました.教官推薦図書や学生希望図書もHPから申し込めるようにし,かつ,各月の中央図書館購入図書もHPから見ることができるようにしました.残念ながら,館長だよりは,それ程頻繁に書くことができず,他での講演(国会図書館や他大学など)のPowerPointスライドを館長のページに載せて,報告に代えた時もありました.今後は,もう少し頻繁に館長だよりも出すように努力したいと思います.今後,英語でのHPの充実も含めてさらなる情報共有・公開を進めたいと思っています.

7)電子図書館機能の充実

平成12年度から,非常に力を入れて基盤整備をしてきましたのが,電子図書館機能です.とりわけ,電子ジャーナルの導入は,喫緊の課題でした.松尾総長始め本部のご理解と,後述する国立大学図書館協議会の電子ジャーナルタスクフォース(主査:伊藤義人)4),5)の活動により,名古屋大学の電子ジャーナル購読数は,平成13,14年度は日本一と言える程になりました.平成15年度は,学内で約7,500タイトルが,パソコン等からアクセス可能です.名古屋大学の外国語の冊子体購読雑誌は約4,000タイトルですので,学術基盤が格段に整備されたと言えます.これを維持管理するのは,大変な仕事ですが,図書系の職員や先生方の協力で,名古屋大学の電子ジャーナル利用ホームページは他大学の模範になっている程です.今後は,単にタイトル数を増やすだけでなく,質の高い電子ジャーナルの購読に努める必要があります.高度な使い方の研修会の必要性も増しています.

電子ジャーナル以外にもWeb of Scienceなどの引用データベースなどの充実も,間接経費からの支出が認められ,教育研究だけでなく,評価にも使える環境ができました.今後は,2次データベースの拡充が必要と思います.また,附属図書館所蔵の約280万冊に関する遡及入力(電子検索を可能として所蔵場所が分かるようにする)も,間接経費からの支出が認められ,あと6年で終了予定です.やっと,本学が何を持っているかという情報を外部に完全に発信できる見通しができました.

なお,中央図書館演習室に附属図書館サテライトラボ(情報メディア教育センター)が平成15年度から設置され,22台のパソコンが使えるようになりましたので,中央図書館内での電子図書館機能の活用が,学部学生も含めて可能となり,研修も容易になりました.

今後,基盤整備しつつある電子図書館機能を高度に有効利用できるようにするとともに,学内の教育研究情報を外部へ発信できる「名古屋大学学術情報コラボレーションシステム」の構築に努めるつもりです.公立や私立も含めた大学間連携のためのポータル作りに,附属図書館も中心的な役割を果たしたいと思っています.

8)資料購入の見直し

平成12年度から,教官指定,学生希望図書経費の明確化をしました.学習用図書,参考図書の見直しも大幅に行いつつあります.中央図書館の学習用図書(約20万冊)は,これまで充実に努めてきましたが,収蔵している学習用図書が時代に合致しているか疑問であるとの意見も出ていました.そこで,各部局の先生方の協力を仰ぎ,「蔵書整備アドバイザー制度」を蔵書整備委員会の努力で作っていただきました.平成13,14年度に,かなりの蔵書を専門の先生方に熱心に見ていただき,時代に合致しない蔵書を指摘いただき,買い換えなどの措置をとっています.何割かの図書が学習用棚から移動させられた分野もありました.生物・医学系など,学問の流れの速い分野は,迅速に学習用図書を買い換えるなどの必要性がはっきりしました.今後も,この制度を充実するとともに,学習用図書経費のさらなる確保をする必要があると思います.米国などでかなり普及してきている電子ブックの可能性も探る必要があります.名古屋大学出版会との連携による可能性を探る予定です.

参考図書についても,本格的に見直しをかけています.Web上で利用可能になっているものも多く出ており,冊子体からの変更を早急に進める必要があります.

一方,文部科学省の大型コレクション経費は,平成15年度からは無くなってしまいました.既に,世界市場に出ているコレクションに魅力が無くなっているという言い方もされますが,名古屋大学独自の構想による大型コレクションや貴重書・文書の収集6)は,今後も重要であり,学内経費による収集も可能となるような努力をしたいと思います.

9)中央図書館の快適空間の確保

図書館においては,安全で快適な空間の提供が重要な役割です.図書館は学生の学習環境として,学内で,学部生,大学院生に広く開放されている貴重な空間であり,勉学および研究に不可欠です.その空間が,学内でもっとも安全で快適でなければいけないのは当然です.中央図書館の物理的な広さ,什器・照明など今後の改善項目は多くあります.また,館内での飲食などのマナーの問題もあり,館内巡回をしてイエローカード(黄色の紙に注意事項をチェックして渡す)制度なども作りましたが,必ずしも良い状態とは言えません.今後,利用者が快適と思い,来館したくなるような図書館を目指したいと思います.

10)自己評価,外部評価の実施

平成12年度に自己評価を実施し,その評価書を基に平成13年度に外部評価を実施しました.電子ジャーナル整備など高く評価された事項だけでなく,外部評価委員から注文がついた事項もありました.詳しくは,前号の館燈7)で,注文に対する対応も含めて報告しました.現在,作成している中期目標,中期計画,年次計画にもこれらの自己評価や外部評価を十分踏まえて行っています.

今後,さらに社会に開かれた大学を支えるため,附属図書館も大学の社会貢献に寄与できる活動を行っていきます.

3.学外との連携協力

1)国立大学図書館協議会との連携協力

図書館の性格上,1つの大学図書館だけで解決できることには限界があります.特に,電子ジャーナルや法人化対応については,1つの大学図書館だけでは到底対応できない問題が含まれています.そこで,平成12年度から,国立大学図書館協議会に働きかけ,電子ジャーナルタスクフォースと,法人化対応の懇談会を立ち上げました.

2)国立大学図書館協議会電子ジャーナルタスクフォース

学術雑誌は危機的な状態にあると言われています.毎年10%前後の値上げに対して,これに応じて支払い続けることはもうできず,毎年,購読タイトル数の削減を余儀なくされていました.名古屋大学も例外ではありませんでした.さらに,新規に電子ジャーナル購読をどのように実現するかが問題でした.欧米の大学に比べ極端に遅れている分野でした.

そこで,エルゼビアサイエンス社など大手出版社との交渉を行い,有利なコンソーシアム契約を実現するために,全国の国立大学附属図書館を代表して交渉を行う電子ジャーナルタスクフォース4),5)が設立されました.言い出した責任をとって,私が主査を務め,既に2年半,精力的に活動してきました.なお,電子ジャーナルタスクフォースは,コンソーシアム形成交渉だけでなく,調査や全国研修を実施するとともに,将来の学術情報流通のあり方について協議をするなど,できることは何でもやるというスタンスで活動してきました.

コンソーシアム形成交渉では,最初に出版社の副社長クラスで電子ジャーナルの責任者を日本に呼んで,英語の資料なども用意して,日本のおかれている状況などを詳しく説明しました.その後,東京で約80回の交渉を行い,大手の5出版社だけでなく,その他の出版者などとも交渉して,現在約12,000タイトル以上の種々のコンソーシアム契約を実現しました.日本の国立大学の電子ジャーナル基盤は,格段に充実しました.エルゼビアサイエンス社とのサブコンソーシアムでは,教育系大学で,数十タイトルの冊子体を購読維持するだけで,800タイトルを超える電子ジャーナルを追加費用無しで見ることができるような,非常に有利な条件のものもできました.

引用データベースのWeb of Scienceに関しても,既にコンソーシアムを形成しました.学会系の電子ジャーナルや2次データベースについてもコンソーシアム契約を交渉中であり,今後もこの活動を継続し,より有利な条件を確保し,学術基盤整備に努めたいと思います.価格安定のシステムにも,何とか挑戦したいと思っています.

なお,この活動が文部科学省に評価され,平成13,14年度に,呼び水としての電子ジャーナル導入経費が措置されました.多くの国立大学が,電子ジャーナル元年を迎えることができました.名古屋大学は,この経費と松尾総長始め大学のご理解を得て間接経費を使って,電子ジャーナルタスクフォースの成果を享受して,他の国立大学に先んじて電子ジャーナル導入を進めることができました.

3)法人格取得に関する附属図書館問題懇談会

国立大学の法人化を控え,附属図書館の問題を話し合う懇談会を世話人の1人として立ち上げました.2年少し活動してきましたが,80名を超す懇談会参加者があった場合もあり,省令化問題や中期目標・中期計画に関して情報共有をしました.法人化後は「競争と連携」という厳しい環境に附属図書館はおかれますが,図書館機能の高度化のため,各大学図書館は切磋琢磨する必要があることが,広く認識されたと思います.

ただし,法人化に向けての文部科学省への種々の要望は,大半が実現せず,残念に思うとともに力のなさを痛感しています.今後も諦めずに,努力したいと思います.

4)その他の活動

東海地区図書館長懇談・懇親会を平成12年度に始めました.地域の公共図書館長とも話ができるようになりました.大学図書館は,敷居が高く,これまでなかなか連携が進まなかったようですが,今後は社会貢献や生涯学習に関連して,実質的な提携をする必要があると思います.

また,平成14年9月からは,社会に開かれた大学図書館とするため,市民にも中央図書館の研究用図書を貸し出ししています.市民,NGO,NPOに資料を利用する機会を提供しています.既に,年間2万人を超える学外者が,中央図書館に来館しており,今後ますます増えるものと思います.附属図書館は,学内構成員の教育,研究,学習を支援するのが,第一義の役割であり,厳しい人員や予算の中で,このような活動も積極的に行わなければならない状況をご理解いただけるとありがたいです.

4.今後の課題と展望

既に,2.と3.で,多くの課題について触れていますが,ここではそれ以外の項目について簡単に触れます.

1)大学の法人化に対応するための附属図書館の改革

1)ユーザーの視点を重視した学習空間と学術基盤の整備,2)個性ある大学を支える個性ある図書館,3)国際的に社会に開かれた図書館,4)大学・学術経営の観点からの図書館経営など,大学の法人化に関連して多くの課題8)が附属図書館にあり,具体的な対応は中期目標,中期計画の中で書いています.大学の情報戦略の中に附属図書館を位置づけ,大学のIT武装化を進める必要があります.AC21(Academic Consortium 21)に代表される名古屋大学の国際戦略の中における附属図書館の役割も重要と思います.平成16年度には,附属図書館主催の電子図書館に関する国際会議を開催する予定です.

また,豊橋技術科学大学との再編統合に関わる附属図書館のあり方も大きな今後の検討課題の1つです.

2)著作権問題

電子図書館機能を整備活用するときの大きな課題は,費用と著作権です.今年の通常国会で改正される著作権法では,まだ,ILLにおいてFAXやインターネットなどにより論文を送信する公衆送信権は認められないようです.著作権団体との個別協議による許諾に依存せざるをえない状況が続きそうです.まだ,苦難の道が続くようです.学術情報と小説などの著作物とを分けた扱いをできるように長期的な取り組みが必要のようです.

3)情報技術を活用した新しい図書館像

モバイル環境やユビキタス・ウェアラブルコンピューティング環境の中で,情報連携基盤センターと協力してスマートユニバーシティー構想を練っていますが,このようなIT戦略に支えられた大学における新しい図書館サービスのあり方を模索する必要があります.文理連携や複合領域をも支援し,新しい研究手法や教育手法を支える図書館はどうあるべきか,インターネットを利用した「どこでも図書館」や知的支援機能を持った21世紀型図書館の未来像を明確にしていくために研究開発機能をさらに充実する必要があります.図書館業務の改革や職員のリカレント教育の必要性も高まっています.

4)今後の展望

附属図書館をとりまく環境があまりに厳しいので,明るい展望を描くことは難しいですが,諦めず,附属図書館を良くすることは,大学を良くすることであるという信念に基づいて,たゆまぬ図書館の改革と再設計9)を行いたいと思っています.

あとがき

平成15年4月に,私の所属は理工科学総合研究センターから,工学研究科に異動しました.元に戻ったという方が分かりやすいかもしれません.これまで,理工総研と工学研究科の教官会・教授会の両方に出て,かつ,附属図書館と本部の会議に出ていましたので,理工総研の分だけ会議の数が減りそうです.ただし,図書館関係の仕事や講演(平成14年度は13回)がさらに増えつつあり,忙しさは変わりそうもありません.通常の勤務時間帯は館長室にいて,そこから授業や会議に行っていますが,研究や学生指導の時間が,夜や土日曜日になり,学生に大変迷惑をかけています.附属図書館の現状を考えると,まだ当分はこのスタイルを続けなければならないだろうと思っています.

付録に示すように,附属図書館を訪れる野鳥の判別ができるようになったように,附属図書館が抱えている問題点などに関しては,前より良く分かるようになりましたが,図書館をとりまく環境の変化は激しく,かつ,図書館に求められているニーズは奥が深いので暗中模索というのが本音です.リーダーシップを持って将来のハイブリッド図書館10),11)の未来像を描きながら,個別の事項については種々迷いながら,商議員や職員の方々と情報共有して,迅速な意志決定ができるように今後3年間がんばりたいと思っております.


参考文献

付録:名古屋大学附属図書館中央図書館を訪れた野鳥たち(2000.4〜2003.3)

カワウ,ゴイサギ,コサギ,アオサギ,カルガモ,キジバト,カワセミ,コゲラ,ツバメ,ハクセキレイ,セグロセキレイ,ヒヨドリ,モズ,ジョウビタキ,ツグミ,ウグイス,エナガ,ヤマガラ,シジュウカラ,メジロ,アオジ,カワラヒワ,シメ,スズメ,ムクドリ,ハシボソカラス,ハシブトカラス,ドバト

Last updated June 14, 2000.

附属図書館長新任のご挨拶

名古屋大学附属図書館長
伊藤義人

図書館長

平成12年4月1日付けで、戒能前館長の後を受けて附属図書館長に就任しました.

私は子供の頃から図書館が好きでした.それもあって,最近5年間の附属図書館商議員を含めて,ここ10年くらい大学図書館運営と関係してきました.これまでは,主としてユーザーの立場から,図書館の充実に貢献したいと思ってきましたが,今後は,ユーザーとしての感覚も大切にしつつサービスを提供する側の責任者として図書館の充実に貢献しなければならず,たいへん緊張しています.

図書館の歴史は,古代オリエントまでさかのぼると言われていますが,長い歴史の中で,図書館は今最も大きな変化にさらされていると思います.紙媒体から電子媒体への変化などは,量的にも質的にも大きな変化を図書館にもたらしています.世界のどの大学も,歴史的にその誕生の瞬間から図書館施設を備えており,大学を生命体と考えれば知のサークル(Circle of Knowledge)に血液を送り出す心臓に相当する役割を,図書館は昔も今も果たしており,今後もその重要性は変わらないと思います.

ただし,昨今のような変化の激しい時代に合致した大学図書館機能を構築するためには,学内の支援ニーズを汲み上げた絶え間のない改革が必要と思います.現時点では電子図書館1)(デジタルライブラリー)機能を充実し,全学からの新しい支援ニーズに柔軟に応える必要があると思います.電子図書館は,単に印刷物のオンライン版を提供するだけのものではなく,大学で生産された知の情報を速やかに発信し,外部からコメント,アイデア,批評をもらえるため,教育・研究活動を高度化する新しい手法を提供すると思います2).電子図書館は,従来型の図書館機能にとって代わろうという訳ではなく,従来型図書館の大事な機能を維持しつつ,新しい支援ニーズに応えるためのものであり,両者を有機的に結合したハイブリッドライブラリーを目指すべきであると思います.

今後,附属図書館改革に全力を尽くしたいと思っています.

参考文献

関連ホームページ

構造・材料工学研究室

メールアドレス

itoh@nul.nagoya-u.ac.jp